今月からデジカルは第8期です。

すでに何度か書いていますが7期にして初めての赤字決算となります。また売上も20%減となり、2期からずっとキープしていた1億円の大台も割る結果と相成りました。ここ数カ月、つまり7期の下半期は、この赤字決算になる事実を受け入れ、新たな方針の立て直しにかかりっきりでした。

何が苦しいかといって、この先業績が確実に悪くなっていくと先が見通せているのに即効性のある手が打てないこと。それにつきます。また、悪い成績という事実を受け入れなければならないことも、完璧主義な自分には厳しい現実でした。そしてなによりひとり苛立ちを募らせる日々、ひとり社長だけが空回りしている状況を、”自認”していることも苦悩の原因でした。

しかしながら、そういう状況に陥ってからというものの、直接、間接に励ましやら応援やら、陰ながら支えてくれる方々が続出して、結果、精神的にこの難局を乗り切れる見通しをつけることができました。本当に感謝に堪えません。

先生から、「社長、創業したときには何もなかったところから始めたでしょう?」と言われ、なるほどそれはそうだと、まず根拠のない焦りに追い立てられていた自分を取り戻すことに成功しました。次に別の先生からは、成長するためには準備が必要で、それを怠ってきたつけを支払っているだけのこと、ここで辛抱して準備を続けなければ先はないし、逆に乗り切った先には新しい仕事という希望が見えるという言葉もいただき、組織作りのための準備を愚直に続けています。

また、この間には、取締役の絆もさらにまた深まったと感じています。特に、秘書役でもある古屋さんが長期入院して1カ月ほど仕事にならなかった時期は、今考えてもよくもまぁ乗り切ったと思います。萩原さんも含めて、もう10年以上彼らとは一緒に仕事をしているので、人となりを含めて信頼できる間柄だと思っていますが、今後は、今いる社員とも同様の絆を仕事を通じて構築していけたらと考えています。

それでも、一番効果があったのは、会社の経営には一切タッチしていない家内が、日々苦悶している様子をみていて、ある日、人生楽ありゃ 苦もあるさ〜♪ と気安く歌ってくれたことです。はたから見ると親身じゃないと思われるかもしれませんが、深刻に考えているからこそ、そうやってのんきにドンマイと言ってくれることが、どれほど大きな救いになるかということです。

しかし、そういや水戸黄門の歌って、じっくりと聞いたことなかったなと改めてYouTube見てみました。

ああ人生に涙あり

作詞 山上路夫 作曲 木下忠司
唄 原田龍二 合田雅吏

人生楽ありゃ 苦もあるさ 涙のあとには 虹も出る 歩いてゆくんだ しっかりと 自分の道を ふみしめて
人生勇気が 必要だ くじけりゃ誰かが 先に行く あとから来たのに 追い越され 泣くのがいやなら さあ歩け

いい歌ですね。自分も、勝つことばかり考えていると失敗するぞ、と偉そうに人には言っていましたが、まさに今自分がそのことを戒めるべきときだと思いました。決して奢っていたわけではないのですが、慢心があったことは事実です。

やはり心のどこかに、これだけの貯えがあるからと、気の抜けた仕事をしていた(許していた)ところがあったと思います。今回の赤字決算で、これまで蓄積した儲けをすっかり吐き出すことにはなりましたが、それで目が醒めたというか、わかったことがありました。儲けがなくなったとはいえ、それでも創業時を上回る資本をもとに事業をまわすことができるわけで、事業経営において一喜一憂することの愚かさというか、ここにきて初めて、会社が儲かったり、損したりという回転を経験して、なるほど経営とはこういうことか、という新たな視点を持つことができました。

いろいろな考えがあるとは思いますが、私は一度創業した会社は継続し発展させ続けるべきだと考えています。もちろん事業内容には最適な時流がありますから、その時々によって社内の事業を創、廃業していく必要がありますが、その会社の理念が社会的に潰えない限り、社員(社長)は社業を発展させるために事業をし発展させていくべきだと思っています。それによってのみ、社会貢献と社員個人の生活の安定という2つの課題を同時にクリアできると考えています。

今手元に国税庁の資料があるのですが、昭和27年には欠損法人(赤字企業)の割合が全法人に対して22.5%だったのに対して、平成11年には、それが69.9%になっています。もちろんそれが会計上の問題で、税務対策が浸透したためだとか分析はいろいろできるでしょうけど、そもそも税金を払わないと純資産は増えないので、税金を支払いたくないから赤字にするなどといった短期的な儲け追求で、たとえ瞬間的にキャッシュを確保できたとしても、まわす資本が小さいままでは長期的には会社が傾くに決まってます。そういう儲かってない(あえて儲けを出さない)会社が増えているわけですから、国が傾くのは当然のことでしょう。

最近もさらに、不景気だから転換期だからと、赤字を承認するような慰めともつかない言葉をかけられることもあるのですが、それは違うだろうと思います。日本はまだ安全で便利な社会ですが、その社会を構成するコストを誰が稼いで賄っているのか、それをきちんと考える必要があると思います。30兆しか収入がないのに、90兆の支出をする経営をどうしておかしいと思わないのか私には不思議です。

みな、きちんと稼いで税金を支払って、さらに社会をよくするために意見していくべきで、そういった観点から事業経営を考えると、会社経営において社会貢献と社員個人の安定は間違いなく連動していると思います。逆にいえば、会社が赤字であるということは、この2つの課題を達成することが極めて困難になるわけで許されるものではありません。

長々と書き連ねてきましたが、ここ数カ月、いろいろな経験や気付きも得たところで、経営者は結果責任を問われるということであれば、前期7期の収益悪化の責任をとって、この際、デジカルの社長を交代することを決意しました。

え?辞めて誰が社長になるの? そんな奇特な人は自分をおいて他にありません。だから交代する社長も自分です。

なんだ冗談か、と思われるかもしれませんが、少なくともオーナー人格の自分が、経営者人格の自分に対して、経営責任をとれと言っていて、経営を刷新するために辞任をすることにしました。経営責任をとって人が変わるということは、つまり新しい人になるからには、私自身がこれまでの自分とは明確に違う自分に変わらなければならないということに他なりません。

さっそく今日の朝礼で簡単に発表しましたが、まずは見えるところからということで、新社長の報酬を見直すことから始めました。これまでも緊急的に報酬を下げたことはありましたが、年俸を下げるのは創業来初めてです。これは25%の減俸と決めました。報酬を下げることについてはもちろん残念ですが、それこそ創業時にはそれまで勤めていたときの年俸を大幅に割り込んだところからスタートしているので、こういうのはすぐに回復できると考えています。事実、来る9期には業績を回復して、さらなる報酬増を目指しています。

あとは会社の鍵当番をすることにしました。朝一番に出社することで何かが変わるのかと思うかもしれませんが、これは理屈抜きで変わると思っています。次にこれが一番大きな課題ですが、現場をしかりと任せていくことにしました。いまも基本的に仕事は任せているのですが、これまでは、何か問題があったときには、すぐに現場に乗り込んでいって、あれこれ指示を出し混乱を収束させるという名目で、実は社員の成長ポイントを奪っていました。

失敗を経験しないと人は成長しないということは、それこそ前期後半の自分自身を振り返ってみてもわかることです。社員が果敢に仕事にチャレンジしていく環境をこれからもきちんと整えていきます。

次に、取締役には今後のさらなる業務執行の強化を命じました。これまでは古い仲間だという安心感がともすればぬるい仕事の結果につながっていたところもあったと思います。それぞれに執行すべき業務を明確にし、それが達成されているかどうかをより厳密に精査していくことにしました。

このようにまずはトップ、次に幹部が見えるところを変えるところからはじめます。

一方で社員の給与については一切手を入れないことも決めました。当社の利益の源泉は、社員のクリエイティブな活動成果にかかっています。ここに手をつけることは、自ら首を絞めることと同じことです。

この点、彼らの現在の報酬を確保するために、期末に運転資金として、新たな資金調達を実施しました。これは借り換えも同時に実施して、金利返済額ともに従前よりも条件をよくすることができました。

キャッシュフローは、今期から収支がトントンである限り、3年は確実にもちます。もちろんトントンで抑えるつもりは毛頭ありませんが、まずは何よりも安心して仕事ができる環境をつくることが一番大事です。給与の遅配や減配など言語道断(自分も含めて)。そこは絶対にそういった危機が起こらないように厳格に対応していきます。

そのうえで、社員それぞれの仕事と収益の連動について、見える化を徹底的に促進していこうと考えています。これは単純なことで、稼いでいる人がきちんと報われる会社にしていこうという考えです。すでに現時点でもインセンティブが効く給与体系になってはいますが、それに加えて来期に向けては全社員のベースアップ目標に据えていきます。

また、社員教育を行うことを止めることにしました。これは教育しなければならない社員を採用することを止めるということです。いまデジカルでは、新卒採用の社員が2年目、3年目となりました。彼らの成長を見るにつけ、いまさらながら教育が不要であったことを実感しています。彼らに必要だったことは業務訓練です。教育は学校を卒業した段階で終わっている前提で採用を続けます。社員に必要なことは、収益を上げるための業務訓練であって、教育ではありません。

これまでは、その教育が足りない社員も引き受けていたのですが、その結果、業務遂行を愚直に進めている社員にとっては不満であり、教育が足りない社員にとっては不安であり、双方にとって不幸でしかありません。学校教育以上の教育を求めるならば、自己都合で行ってもらいたい、会社にそれを求める人は今後絶対にデジカルには入社させないことを決めました。平行して新卒(という言い方が問題だが)採用を開始することにしました。

今日からの8期、デジカルは社員一同しっかりと稼いで、必ず結果を出し納税します。その先にしか品質の高い仕事の成果と、社員の生活の安定はないためです。しかし、単に数値合わせのために荒稼ぎしようってことではなく、きちんとサービスを提供するために徹底した努力を惜しまない、ということも同時に決意したいと思います。

すでに新たな事業についてアナウンスして取り組んでいます。あえて今日、そういった事業展開の夢物語を語らなかったのは、日々のサービス品質向上、提供機会の増加の先にしかそれら事業の成功がないと考えているためです。

面白そうなことは誰にでも思いつきます。あとはそれを実現できるかどうかが問題で、デジカルではその点を愚直に実行していこうと思います。

最後に。先にも書きましたが、この数カ月どういった人が信用できる人で、どういった人がそうでないのかということが明確にわかりました。

香月個人としては、この先、限られた時間を大切にしていくためにも、合わない人とは積極的に会わない人というのを明確に決めていこうと思っています。その分、志をともにする人、仲間との時間を濃密に共有していこうと思います。